キュレーションホテルとして新たな輝きを得た築87年の伝統建築

熱海春日町第2キュレーションホテル「須藤水苑(すとうすいえん)」

キュレーションホテルとして新たな輝きを得た築87年の伝統建築。
この家は、オーナーご一族がその歴史を刻み続けた別荘です。いくつかのジェネレーションでは居住した時期もあり、暗く小さく仕切られた間取りには、長年にわたり蓄積された多くの家具や持ち物であふれ、いつしかご家族の宿泊すらも遠ざける状態に。
古い家が陥りがちな問題を解決するための大胆かつ緻密なプランニングが、インテリアデザイナーが主導する改修プロジェクトとして行われました。
これにより、空間の関連性も、動線も飛躍的に改善され、ご家族が楽しく集まり時を過ごす、光あふれる空間に生まれ変わりました。ご一族の所蔵品や伝統工芸品に加え、コンテンポラリーな家具やアートピースによる新旧のコラボにより、伝統と革新が融合し、未来へと世代をつなぐデザインが生まれました。
なによりそれを可能にしたのは、棟梁、左官、洗い師、建具師、表具師などの伝統建築をつかさどる匠たち。新旧の匠の技は、まるで呼吸を合わせたように自然に溶け合いました。木や竹、聚楽の壁や紙の素材感が、息をのむほど美しい表情を醸し出しています。
日本の家は本当に美しい。
美しい日本の古民家をこのように再生できたことに安堵するとともに、このお仕事をいただけたことにこの上ない幸せを感じます。

施設

デザインコンセプト

ここ熱海の地、そしてご家族にゆかりのある、「蒼の海風、琳派の華やぎ、工芸×アート」をキーワードに、背景となる日本建築を生かしつつ、金と青のカラースキームの中で、伝統と革新を融合した優美なデザインに仕上げました。

日本にはわびさびに代表される経年変化の素材感を楽しむ美と、琳派や色絵に代表される絢爛豪華で雅な美の、2つの相反する系譜の美が同格の美として共存します。それが日本の美の大きな魅力。 今回のプロジェクトでもそれを強く意識しています。 例えば、間伐材や建具の木肌に対する、色絵の磁器や琳派の屏風のコントラストなど。随所にみられる対比の面白さを感じていただければと思います。

空間プランニング

デザインコンセプトを実現する空間プランニングを行います。
<ビフォア図面>

オリジナルの図面上にオレンジでLDKになるエリアを示してありますが、赤でハイライトした部分は壁、襖、障子があり、空間が分断されたと感じられる要素です。襖や障子を開けたとしても、大空間を作るには視覚的障害となります。
また、いくら和室が好きだとは言え、椅子の暮らしに慣れた現代人にとっては家具を置く間取りにするのが、心地よい暮らしを送るには現実的です。つまりソファや椅子、ダイニングテーブルがそれなりの大人数で使えるレイアウトも必要です。これはサロンセミナーを行うキュレーションホテルにも必須です。
さらにこちらの家ではもともと台所が家の東北の角に追いやられていましたが、キッチンをLD空間に隣接させ、コミュニケーションの中心として機能させることも必要でした。そのためにはアイランドカウンターが有効です。
そこで考えたのが、和室の周囲にめぐらされた廊下や縁側、収納空間も取り込み大空間のLDKを作ること。

<アフター図面>

新規の空間では、85㎡の広々した、分断が感じられないプランニングが行われています。分断の要素が圧倒的に少なくなりつつも、赤線で示した障子の桟による緩やかな結界でゾーニングが行われていることで、だだっ広さのない心地よさを演出します。 リビング、ダイニング、キッチンを一直線に並べ、隣接する廊下と縁側で回遊を可能にし、さらにトイレだった場所へスペースを拡張し、ライブラリー&カードゲーム部屋にしました。奥行き3メートルのデッキも加わり、様々な場を内包する空間が完成しました。 さらに、部屋をきれいに保つための収納計画も充実させました。 重要なのは、これらの改装を、もともとの建築に手を付けることなく行っていることです。つまり、意匠や柱はオリジナルの日本建築のすばらしさを生かしつつドラマティックな空間の転換を行うことができたのです。

住宅性能の向上

もちろんこの改修には耐震改修も含まれます。桃乃八庵でもお世話になった熱海の耐震スペシャリスト若林建築設計事務所の若林先生にお手伝いいただき、図面上赤で示した壁はすべて耐震壁になり、耐震係数X、Y方向でわずか0.1、0.2だった建築が、いずれも1.0をクリアし堅牢な住宅に生まれ変わりました。 また、住みやすい家にするには断熱性能の向上も必須です。薄いガラス戸すべての外側に特注で2重ガラスサッシを付加することで、内側からはオリジナルの木製ガラスサッシの見えそのままに3重ガラスなり、さらに床下断熱に加え畳用のフロアーヒーティングも導入することで、高い断熱性能をローラーニングコストで達成しました。床は玄関から水回りを除いてすべてダイケンの和紙畳を導入し、足触りも優しいスリッパフリーを実現。もう冬が寒くて風が吹くとガタガタと窓がうるさい日本建築ではなく、四季を通じて快適な現代の住宅です。 実施設計はやはり熱海で桃乃八庵でもお世話になった岡本設計事務所の岡本先生にお願いしました。

リビング・ダイニング・キッチン

家の中の一番いい場所でLDKとなったスペースは、もともと10畳と8畳の和室に6畳相当の廊下と押入れが続き、両側を同じ広幅の縁側と廊下が囲む構造でした。細かく暗く空間を分けていた壁を取り去ることとし、さらに隣接する厠だったエリアも加え、まず85平米と開放感あふれる空間をつくりました。
この大空間化を、古い木構造と建具をそのまま残すことで達成し、伝統の洗いをかけた雪見障子を緩やかな結界として使うことで、広いのに広すぎず、心地いい空間を作りました。
聚楽壁と木部に現れる黄金色と、キッチンのタイルやファブリックに現れる青が、鮮やかなコントラストを生み出します。

ダイニングルームの背景の屏風は、トミタの金箔紙に熱海にある国宝「色絵藤花文茶壺」野々村仁清作からインスピレーションを得て、和紙作家 熊谷雛がちぎり和紙で大胆な絵柄を施しました。ダイニングテーブルは静岡のヒノキの間伐材、きこりの久米さんが届けてくれました。
屏風は折り戸になっており、それを開けるとキッチンが現れます。なんといっても目を引くのは、幅3.6メートル、奥行き1.1メートル、厚み55ミリのヒノキのカウンター。ここのヒノキの一枚板はすべてきこり久米さんによるもの。ラッキーにも3年自然乾燥された素晴らしい材をお持ちでした。間伐材ならではの節も、あえて残した小口の木肌も、ここでのリラックスした団欒を演出します。キッチンキャビネットは大工さんと建具屋さんによる手作り。面材の杉の正目の揃った木肌が、カウンターのワイルドな木目とのコントラストを生み出します。金具は日本橋の老舗西川商店のもの。キッチンの奥の、六角形それぞれに窯変天目のような味わいを見せる伝統のモザイクタイルは、多治見の杉浦陶器製
照明はもともと湯殿にあった銅製の大型シンクから、鉄の造形作家の上野玄起氏が制作。

ダイニングテーブルもヒノキの間伐材。伊勢で見た式年遷宮の木肌を連想させるその美しい表情を生かすため、脚は伊勢神宮のお社をイメージし大工さんに作っていただいたもの。カーペットは代々この家に伝わる青の市松柄。カリモクRenの椅子斉藤上太郎氏デザインのファブリックや、雪見障子の格子柄のエレメントとよく合います。これらのジオメトリックな柄の繰り返しが、部屋の圧倒的な華やかさを演出します。

テーブルの上の食器も代々引き継がれたもの。驚くほど繊細でカラフルな伊万里と九谷。
この部屋からは熱海を囲む山々と、眼下には年間20回も花火が打ち上がる熱海湾が見渡せます。
ランチョンマットは西陣織ながら日常で気軽に使えるようデザインされた特注品です。伝統の食器で熱海の最高の景色を楽しみながらいただくお食事は、何よりの贅沢な経験となるでしょう。

空間のつながり

ダイニング越しにリビングを望む。10畳のリビングにはフルサイズの床の間と書院。現代アートと金箔紙でしつらえます。
照明も創建当時からのもの。美術品のような精緻な技巧的装飾が美しい逸品です。
右側の元廊下に面した壁は外して、縁側の欄間に合わせて現代の建具屋がレプリカしたもの。実はこのアレンジで空間に左右対称性が生まれ、多くの家具やアートピースの質量感を内包できるいい空間になりました。

書院の先にはトラの屏風。まるで檻の先にいるよう。障子紙を取り去った仕掛けに思わぬ効果が。

家具

家具はこの空間においては、ダイニングチェアとリビングの古い座卓(コーヒーテーブル)以外は、ソファ、サイドテーブル、サロンチェア、デイベッド、ダイニングテーブル、ポーカーテーブルなどすべて澤山によるデザイン。2009年にカリモク家具から発表され、ミラノサローネにも2度出品された「蓮夕」シリーズです。澤山が幼少期から親しんだ書のはらいをモチーフとしたラインは、洋家具でありながら和の空気感を醸し出す、澤山のプロジェクトでは常連のピースたち。特に斉藤上太郎氏がデザインし、西陣の織機で織られた華やかなファブリックとの親和性がとても高い。
△のエレメントをつなぎ合わせて作られたスタンド照明とサイドテーブルは、鉄の造形作家上野玄起氏の作品。

「蓮夕 サロンチェア2020」

ライブラリー

元厠の壁を取り去り、空間を広げてライブラリー・ギャラリーを作りました。代々引き継いだ対の屏風を左右の壁に配して。
照明は鉄の造形作家、上野玄起氏作。(キッチンの照明、リビングのスタンド含め、照明はすべて澤山デザイン。)

左の棚は40ミリ厚さの間伐材で制作。代々の審美眼で選ばれた美しい陶磁器が並びます。
中央のポーカーテーブルは、普段は書籍などのディスプレイとして使用。この空間を作るために切らざるを得なかった木の幹を、木肌をそのまま生かしてテーブルの脚に。これも棟梁の仕事。

和室

二間続きの和室はかつて台所と茶の間だったもの。
ふすまは京都の唐紙工房山崎商店による華やかな菊柄。この色柄とテーマが繰り返される。

ベッドのヘッドボードには、ほかのエリアで使われていた戸板を使用。
上に掲げた屏風が圧倒的な華やかさを添える。

湯殿

湯殿は同じ位置だが、入る位置を変え、スペースを拡張した。カラースキームはリビングと同じヒノキの木肌と多治見の青のモザイクタイルが作り出す。
ホーローの風呂もヒノキ色。柔らかな色味が印象的。天井はオリジナルを残し、木の色合いのコントラストを生かした。

洋室

87年前にアーツアンドクラフツ様式で作られた洋室。天井はルネッサンス様式の格天井。アーツアンドクラフツ、女性好みをキーワードに、ウィリアムモリスを採用し、掲げられたご一族のルーツとなる肖像画のカラースキームを反映した色味でまとめた。期せずして、このグリーンブルーとサーモンピンクのコンビネーションは2019年秋のトレンドカラーでもある。

玄関

<ビフォア>

<アフター>

暗く細長い廊下が迎えた玄関は、プロローグを演出するように、照明が明るくいざなう。

ギャラリー

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