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書籍の紹介

『キュレーションホテルが拓く伝統の未来』がエイトノットから出版されました。

かつて皇族や財閥の別荘が立ち並んだ熱海の景勝地で、5年間放置され解体寸前だった築85年伝統建築の、再生プロジェクトの軌跡。英国在住インテリアデザイナーに見出された元旅館別館は、当時の意匠とともに驚きの大空間として蘇り、世界的デザイン賞での入賞も果たした。負の遺産が「キュレーションホテル」として生まれ変わることで、伝統工芸やアートが還流する場となり、やがてアーツアンドクラフツツーリズムの核となる。スーパーリノベーションの実例集として、またホテルデザインの新潮流を学ぶ専門書として類のない一冊。

主な内容

◉キュレーションホテルとは何か?〜7つのキーワードから知るコンセプトと手法
◉桃乃八庵ができるまで〜紆余曲折のストーリー
◉時が生み出す真の豊かさ〜伝統工法、美しい意匠、自然素材に囲まれる暮らし
◉伝統建築を未来に住みつなぐために〜耐震・断熱・通気性の向上を成し遂げた伝統と革新の工法
◉自然はデザインインスピレーションの源〜ふるさと新潟、ロンドンの公園文化とウェールズの大自然がくれたもの。文化と自然のベストミックス・熱海に定めた安住の地。
◉桃乃八庵の作り手たち〜サステイナブルな精神を未来へつなぐ、プロジェクト・パートナーズのご紹介
◉桃乃八庵のエクレクティックスタイルの背景と真髄 洋の東西と歴史の新旧の折衷
◉対談1 過去に遡り、未来を照らすキュレーションホテルの可能性 オータパブリケイションズ 専務取締役経営調査室長 村上 実氏
◉日本の魅力を伝えるキュレーションホテル、サステイナブルなアーツアンドクラフツツーリズムの核として。
◉対談2 キュレーション展示で文化の源流を伝える、JAPAN HOUSE LONDON館長マイケル・フーリハン氏
◉世界が称賛する伝統工芸の作り手たち。工芸壁紙を送り出すトミタが描く世界戦略。
◉世界を席巻したジャポニズム〜バロックから近代美術史において世界を魅了し続けた日本の美の系譜。今こそその真価を見直すとき。
◉あとがきにかえて〜伝統建築と文化がたどった近代史から紐解く、日本の美の軸の行方

出版社からのコメント

英国に22年暮らし、インテリアデザインにおける最高峰のマーケットを擁する都市ロンドンで、デザインオフィスを16年にわたり主宰してきた澤山乃莉子。日本の伝統工芸のすばらしさを日欧のインテリア空間で表現し続けた著者が、その経験と知恵をサステイナブル哲学のもとに結実させたのが、日本初となるキュレーションホテル「熱海 桃乃八庵」。キュレーションホテルとは、日本の伝統建築素材・伝統工芸・アートをホテルという場を通じて還流させるだけでなく、地域のアーツアンドクラフツツーリズムの核にもなる施設。2018年11月のオープン後、欧州最大級のデザイン賞で入賞し、多数の媒体に掲載されるなど、桃乃八庵のコンセプトは、サステイナブルな文化成熟社会創造への手法を宿すことが評価され、建築デザインやホテル業界から大きな注目を集めています。

また、本書には2つの役割があります。ひとつは、5年間も放置され瓦解寸前だった築85年の建物を熟練の大工と共に救い、現代の最先端デザインに蘇らせた驚くべきリノベーションプロジェクトの全容を伝えること。よみがえった「桃乃八庵」の建築と意匠美、そして和洋の時間軸を融合させたダイナミックなしつらえを、コーヒーテーブルブックを意識したデザイン性の高いビジュアルで表現しています。もうひとつは、キュレーションホテルのあり方とその意義を明らかにすること。書き下ろしのエッセイやインタビューにより、世界でも類い稀な文化の多様性と魅力を伝え、また日本の暮らしを豊かにし、インバウンドにも訴求するリソースを指摘しています。

本書を特にご覧いただきたいのは、これからホテルや宿泊施設のオープンを計画されている関係者の方々やキュレーターとなり得る建築・デザインのプロの皆様。また、伝統建築物を所有するオーナーの皆様にとっても、建物を壊すことなく未来へ繋ぐリノベーションの可能性を見出すヒントになるでしょう。“キュレーション”という考え方が拓く、サステイナブルで革新的なビジネスモデルへの期待が込められた一冊です。

日本では初お目見えとなる「キュレーションホテル」。聞き慣れない言葉だと思う。まずは、その定義とコンセプトを説明しよう。

キーワード 其の一

目利きのちから

Discerning power

英国などで見られる先進例と共通するのは、建築やインテリア、伝統工芸やアートに造詣の深いオーナーが、その目利きの力で作り上げた場である、ということ。キュレーションホテルはその名の通り宿泊施設だが、同時に伝統建築、伝統工芸、アートなどのショーケースでもある。同時にショップであり、カフェやレストランでもあり、サロンやギャラリーもあり得るし、さらにはそれらの複合でもよい。つまりは、その建築空間が持つ特徴とオーナーの得意分野を活かし、宿泊施設として伝統工芸やアートのマーケティングと普及を行う場。そういった複合的な機能を持つホテルを「キュレーションホテル」と呼ぶ。
キュレーションホテルは、日本ではまだ新しい、ほとんど認知されていないタイプの宿泊施設だ。それは当然で、というのもキュレーションホテルという命名、その登録商標化、キュレーションホテル協会の設立などは、すべて私が行っている。先に述べた通り、その先進例が英国には存在するが、実はそれを運営するオーナー本人たちが「キュレーションホテル」と呼んでいたわけではない。キュレーションホテルを作りたいと思い立ち、熱海で初めてのプロジェクトをスタートし、その概念の先進例を英国で探し、見つけたというのが本当のところである。

キーワード 其の二

日本の
伝統建築を守る

Japanese traditional architecture

キュレーションホテルは、伝統建築の再生プロジェクトでもある。素晴らしい価値を持っているにもかかわらず、負の遺産として扱われ、解体されていく伝統建築は、日本全国に数知れない。私が手がけた熱海の「桃乃八庵」は昭和8年の建築だが、現代ではもう手に入れることのできない、実に美しい建築意匠にあふれている。一度壊してしまったら、こういうものは二度と再生できないだろう。職人たちの丁寧な手仕事によって作られ、長い時間を生き抜いてきた建築を、そんなに簡単に壊してはいけないと私は考える。それは必ず再生可能なのだから。これは、17年間ビジネスを行ってきた英国で、築数百年の歴史建築を再生させてきた私の信念だ。キュレーションホテルは、伝統建築を守るプロジェクトである。

キーワード 其の三

人が集い、
学ぶ場をつくる

A place where people gather and learn

キュレーションホテルは、単に往時の姿に戻すだけでは機能しない。空間に人が集まり、くつろぐための場が備わっていることも、キュレーションホテルの必要条件となる。サロン的な集まりやセミナーができる十分な広さの空間と椅子の数やレイアウト、プロジェクターを設置できる場所などは、あらかじめ計算に入れておく必要がある。さらに伝統工芸、アート、アクセサリーなどを多く置いても負けないだけのインテリア空間と、背景となる壁が必要だ。多くのものを置いたときにうるさく感じさせてしまう空間は、そもそもプロポーションが大きな質量を内包するにふさわしくないということ。ものが活き、空間になじみ、そしていくつもの表情を見せてくれる場を持てるように、空間を整えることが重要である。

キーワード 其の四

キュレーションを
見いだす

Curation

建築に含まれるもの、マテリアルなど敷設が必要な素材、さらにいつでも入れ替えが可能な「用の美」としての伝統工芸品やアートピース、また家具の張地やラグ、照明器具など、すべてがキュレーションの対象となる。この場合のキュレーターとは、建築やインテリア、伝統工芸やアートの専門知識を持つプロということになるだろう。とはいえ、すべての条件を備える必要はなく、適切なアドバイスを得られるパートナーシップを組めばよい。キュレーションは、主に地域の伝統工芸品、家具や日用品、そしてアーティストや作家を見出すところから始まる。一つ一つを吟味しながら、発表と販売の場をホテルという場の中に融合していく。

キーワード 其の五

伝統と革新の融合

Fusion of tradition and innovation

伝統だけを振りかざしても未来につながる市場は開けない。伝統には革新が加わって初めて、未来へつながる推進力が生まれる。古いものと新しいもの、西洋と東洋、それらをあえて融合させ、時にはぶつけることで、緊張感やスパークルを生み出すのだ。恐れず冒険する勇気が必要になる。

キーワード 其の六

価値とストーリー

Values and stories

基本的に、キュレーションホテルの空間に配置されたアートや伝統工芸品は、販売されることを想定している。すべてをこの場を通して循環させることも、キュレーションホテルが担うべき大切な役割だからだ。キュレーターであるオーナーの目を通して集められたアイテムは、それが最も活きる場と組み合わせを与えられ、買い手の目に触れることになる。その価値を伝えるにあたり、キュレーションされた一つ一つのアイテムに関するストーリーはとりわけ重要となる。イベントやセミナー、ワークショップなどを通じ、生活空間にある実物を見ながら、作り手や使い手から直接話を聞ける場は販売のチャンスを広げる。

キーワード 其の七

アーツ&クラフツツーリズム

Arts & Crafts Tourism

キュレーションホテルは、ホテル・観光業界にも大きなインパクトを与える可能性を秘めている。近隣の美術館、博物館、作家のアトリエ、クラフト工房、ギャラリーなどに携わるプロたちとネットワークを作り、地域の芸術の価値をともに高め、伝えることで、地域観光と産業活性化のきっかけにもなり得るからだ。当然手間のかかることだが、だからこそ収益性に貢献する。昨今、キュレーションホテルの先進モデルとして、サステイナブルであることを掲げたホテルが急伸したのは、その哲学にゲストが共感し、たとえ料金が上がっても、未来のサステイナブル社会への投資として納得してくれたからだ。同じ理由で、資金調達にクラウドファンディングを利用しやすいことも、導入を後押ししてくれるだろう。キュレーションホテルは、プラスアルファの価値を料金に反映することが可能なビジネスモデルである。さらに今の時代、共感してくれた投資家たちは、利用とSNS発信をセットとして、次のゲストにつなげてくれる。地域発のアートと工芸を観光に活かす

ABOUT ME

キュレーションホテル協会は、メンバーに対して、普及、教育、マーケッティング、認定、デザイン、コンサルティングサービスを有料にて提供します。

  1. 普及 キュレーションホテルの考え方を普及、啓蒙します。
  2. 教育 キュレーションホテル登録希望者に対する教育プログラムを提供します。
  3. マーケッティング キュレーションホテルをつなぎ、そのプロモーションを効果的に行います。
  4. 認定 キュレーションホテルの会員認定ならびに年一回の継続認定を行います。
  5. デザイン キュレーションホテルを目指すホテルに対してデザインサービスを提供します。
  6. コンサルティング 様々な段階でのコンサルティングサービスを提供します。

普及 啓蒙

キュレーションホテルの普及、啓蒙を行います。ウェブ、書籍、セミナー、執筆などを通じて、キュレーションホテルのあるべき姿を伝えます。

教育

英国で習得したインテリアデザインのセオリーを、教育により普及します。澤山塾を通じて作り上げた教育素材を使用し、多くの皆様に実践的に学んでいただきます。

マーケティング

キュレーションホテルをつなぎ、効果的なマーケッティングプラットフォームを作ります。それを国内外に普及し、集客を図ります。また、巡回展やワークショップなどの企画を行い、それを共有します。

審査、認定

キュレーションホテルの認定審査、毎年の資格継続審査を行います。スタンダードを明確にしていきます。

コンサルティング

キュレーションホテルをめざす皆様に対するコンサルティングサービスをします。デザイナーの紹介も行います。

デザイン

実際にデザインをお受けし、施工、完成までを見届けます。

BABIDとの連携で
最高のデザインを

英国インテリアデザインビジネス協会BABIDとの連携で、
世界の超一流デザイナーから国内のデザイナーまで、
ふさわしいデザイナーをご紹介いたします。

PROFILE
さわやま
のりこ

澤山 乃莉子

noriko Sawayama

インテリアデザイナー、デザインコンサルタント、デザインプロデューサー
一般社団法人 キュレーションホテル協会 代表理事
一般社団法人 英国インテリアデザインビジネス協会(BABID)代表理事
インテリアデザインカレッジ「澤山塾」主宰

経歴

新潟県新潟市出身。 明治大学文学部史学地理学科で地理学、博物館学(学芸員)を修める。日本航空国際線客室乗務員を経て、ホテル西洋銀座、御殿山ガーデン ホテルラフォーレ東京などでサービス&人材マネジメントコンサルタントとして勤務。
1995年、家族の赴任に伴いに渡英。ロンドン大学大学院建築学科照明コース、The Interior Design School、サザビーズインスティテュートアートビジネスコースを含む各種カレッジで、インテリアデザイン、アートディレクション、照明学、ソフトファニシング、デコラティブペイント、カラー、フラワーアレンジメント、テーブルコーディネートなどを修め、有名デザインオフィスでのトレーニングを積む。
2000年、ロンドンでインテリアデザインオフィス「NSDA」を¬起業し、17年にわたりビジネスを行う。
2017年、日本に帰国し、BABID(英国インテリアデザインビジネス協会)代表理事として、日本のプロジェクトと英国のインテリアデザイナーをつなぐ業務に携わる。
2018年、一般社団法人キュレーションホテル協会を設立し、ホテルの新分野としてのキュレーションホテルの普及に努め、現在に至る。

活動内容・実績

インテリアデザイン

日欧で住宅、ホテル、レストラン、モデルルーム、家具デザイン、大手デベロップメントやショールームなど数多く手掛ける。ロンドンでは1200㎡を超える住宅も複数手掛けており、アートやワインによるポートフォリオ形成も含む、世界の真の富裕層のライフスタイルに沿ったデザイン提案を行った。

家具デザイン

Chigaidana Cabinetで英国D&D Award 2001 での入選や、カリモク家具から発表した「蓮夕」シリーズで、2010年よりミラノサローネに3度出展。「蓮夕」は、2011年ワールドカップの際、表参道のNakata Café VIPルームに採用され、西陣織のファブリックデザイナー斉藤上太郎氏とのコラボレーション作品もある。

デザインコンサルティング

伝産品の海外展開、長期優良住宅デベロップメント、ホテルセクターなどへのデザインコンサルティングを数多く手掛ける。

セミナー・執筆

ロンドン・パリ・ミラノを12年にわたり定点観測したヨーロッパのトレンド分析、サステイナブルデザイン、ホテルデザイン、伝統工芸、アート、建築インテリア理論、装飾芸術史などをテーマに多数。2009年から4年間、カリモク家具の公式ウェブサイトに執筆したインテリア理論は、当時の日本においてセオリーを網羅した画期的なウェブコンテンツとして、最大月間37万ヒットを達成。

デザインコンサル

伝産品の海外展開、長期優良住宅デベロップメント、ホテルセクターなどへのデザインコンサルティングを数多く手掛ける。

プロの育成

2005年から開発を始めた職業大学院プログラムをもってロンドンのカレッジとの提携を行い、2012年、日本のプロ向けの The Interior Design Professional Development Diploma (英国職業大学院ディプロマ資格)をめざす1年間のオンライン対面講座「澤山塾」をスタート。日本ではインテリア分野において英国レベルのセオリー教育は行われていないため、真に独創的なデザインは生まれず、真似事が横行する。この状況を改善するためには、セオリーを普及するしかないという思いから、「澤山塾」の内容は澤山乃莉子がプロとしてロンドンで学んだことをすべて開示するものである。
卒業生からは数多くのBIIDメンバーを輩出。2017年からはインテリアセオリー全般と歴史学習を網羅した、各回3時間×30科目のインターネットラーニングコースを開始し、建築・インテリア分野の広範な受講生が学んでいる。

メディア掲載

英国:The World of Interior、House & Garden、Homes & Gardens、25 Beautiful Homes, design et alなど。
日本:家庭画報、婦人画報、Modern Living、Bon Chic、Seven Seasなど。

チャリティ活動

日本の伝統工芸品を欧州マーケットに普及するための「Buy J Crafts Campaign」、復興仮設住宅や公共施設に壁紙や壁紙アートを普及する「壁紙アートプロジェクト」など。